【連載・世界の三大宗教を学ぶ (7)世界の三大宗教を比較する】
今回は、今まで学んできました三大宗教を、それぞれの⑴開祖、⑵教え、⑶信仰対象、⑷信仰の特徴を軸にして比較してみたいと思います。
(1)開祖
[仏教]
→釈迦(前463~383、566~486など諸説)
王シュッドーダナと妃マーヤーの間に生誕。29歳で出家。修行の後、菩提樹のもとで瞑想中に真理を悟 る。その後、各地で説法。80歳で病没。
[キリスト教]
→イエス(西紀初年前後~30頃)
処女マリアが聖霊によって身籠り生む。30歳頃、洗礼を受ける。聖霊が降りてきたことを感じ、伝道を開始。33歳頃、捕らえられ磔刑に。三日後に復活。
[イスラム教]
→ムハンマド(後570頃~632)
メッカのハーシム家に生誕。40歳頃、アッラーの啓示を受け宣教を開始。批判・攻撃にさらされる。622年メディナに逃れる。630年、メッカを征服。2年後病死。
●釈迦とムハンマドは人間の子として生誕したが、イエスは神の子として生
誕したという。釈迦は自ら瞑想し真理を見出したが、イエスとムハンマド
は啓示によって真理を得た点に特徴。また釈迦とムハンマドは自然な死に
方であるが、イエスは死後、復活した点に特徴。
⑵教え
[仏教]
①縁起
どんなものも縁により起り、単独に成立するものはない。
②四諦・八正道(したい・はっしょうどう)
四諦とは四つの真理で、苦諦(人間は苦に囲まれている)・集諦(じったい、苦の原因は欲望にある)・滅諦(欲望を滅すれば苦も滅することができる)・道諦(苦を滅するには八つの道がある)。八つの 道とは、正見・正思・正語・正業(しょうごう)・正命(しょうみょう)・正精進・正念・正定(しょうじょう)のこと。これを実践すれば苦から解放される。
[キリスト教]
①贖罪
イエスは、すべての人間の罪を背負って十字架上で亡くなった。神ヤハウェはイエスを復活させ、天に昇らせることでイエスの贖罪を受け入れた。このことを信じることによってのみ、人は罪から赦される。
②アガペー
「敵を愛し、自分を迫害する者のために祈りなさい」と『新約聖書』にあるように、無償の愛を教える。
[イスラム教]
①六信
1.アッラーのみを信じる。 2.アッラーの使者である天使を信じる。 3.啓示の書『コーラン』を信じる。 4.最後の預言者ムハンマドを信じる。 5.来世を信じる。 6.神の予定を信じる。
②五行(ごぎょう)
1.信仰告白(シャハーダ)。 2.礼拝(サラート)。 3.喜捨(ザカート)。 4.断食 (サウム)。 5.巡礼(ハッジ)。 イスラム教では、信仰(六信)と同等に行(五行)も 重んじられる。
●仏教は釈迦によって理論的に思索された真理を信じ、真理と一体になる実
践が重視され、キリスト教では世界の創造者の意志に背いて犯した罪を贖
罪を通して気づきイエスを信じること、イスラム教では神を徹底的に信じ、 同時に善行をなすことが重視されることが特徴。
⑶信仰対象
[仏教]
→仏(ブッダ)
仏教の仏は、「成仏」といわれるように、人間が成るもの。「一切衆生悉有仏性」という言葉があるように、あらゆるものはすべて仏になる本性を宿す。釈迦も仏になった一人。仏の語源「仏陀(ブッダ)」(Buddha)
には、真理にめざめた人(覚者)を意味する普通名詞と、歴史上存在した釈迦を指す固有名詞との二つの意味がある。その境地に至った存在すべてが仏。このため仏は多く、諸仏といわれる。
[キリスト教]
→ヤハウェ
キリスト教の神は、父なる神である。この神は万物を創造し、恵みを与え、守り、そして最後まで導く存在。万物の中でも、人間に対しては特別に祝福し、たとえ神に背反して罪を犯しても見捨てることはせず、この人間を救うためにあらゆることをするという。また神の子としてのイエスを信仰し、カトリックではイエスの母マリアも尊崇する。
[イスラム教]
→アッラー
イスラム教の信仰対象は唯一なる神アッラーのみ。アッラーは、『コーラン』に「これぞ神にして唯一者、神にして永遠なる者。生まず、生まれず、一人として並ぶ者はない」といわれるように、唯一にして絶対の神。あらゆるものを超越した神であり、何かから生まれたという存在でもないし、何かを生むというような存在でもない。したがってキリスト教徒がイエスを神の子とすることは認めない。
●仏教の崇拝対象の仏とキリスト教・イスラム教の崇拝対象の神とは、まっ
たく違う。仏はあくまで人間が成るものであり、すでに成った仏を崇拝し
信じ、その教えを学び、実践して自らも仏に成るのである。後者の神は人
間を創造した存在であり、人間の成れるものではない。ただひたすら救い
を願う存在である。
(4)信仰の特徴
[仏教]
→信解型
*疑いを除くために、よく聞き、理解し、納得して信じる信仰。
*信じることと理解することが表裏している信仰。
*教えによって執着を離れ、清らかになると得心して信じる信仰。
[キリスト教]
→契約型
*自分が神に心をかけられていると気づく感謝から生まれる信仰。
*自分の行為ではなく、神が引き起こしてくださると信じる信仰。
*神と人間の堅く強い絆、契約を基とするところに生まれる信仰。
[イスラム教]
→服従型
*徹底して神を畏れ、すがり、頼り切るところに生まれる信仰。
*ひたすら服従する態度の中に生まれてくる信仰。
*神を信じ、神の前で善行をすれば神が喜ばれると信じる信仰。
●仏教の信仰は、釈迦によって悟られた真理、考えぬかれて至られた静寂な
境地を理解して信じる冷静な信仰。キリスト教の信仰は圧倒的に強力な神
の人間への働きかけに感謝する信仰。イスラム教の信仰は神の強烈な働き
かけに服従し、安心し、善行に励もうとする信仰。
以上、世界の三大宗教について比較してみましたが、仏教はどこか哲学的な印象を受けます。またキリスト教とイスラム教は砂漠から生まれた宗教で、熱くはげしい印象を与えます。これらの特徴を理解し、世界の現状を考えていただければ、きっと参考になると思います。